結論から
値上がりの記録は目に入りやすく、下げの記録は流れていきます。 けれど持ち続けられるかどうかを決めるのは、下げたときのほうです。
ここでは、深さがなぜそこまで効くのかを算数から確かめ、 そのうえで額の決め方につなげます。
深さと、戻るのに必要な上げ幅
まず押さえたいのは、下げ幅と戻るのに必要な上げ幅が同じ数字にならないことです。
100万円が50万円になったとします。下げ幅は50%です。 ここから100万円に戻すには、50万円が2倍にならなければなりません。 必要な上げ幅は100%です。
| 下げ幅 | 残った額(100万円が) | 戻るのに必要な上げ幅 |
|---|---|---|
| −20% | 80万円 | +25% |
| −50% | 50万円 | +100% |
| −70% | 30万円 | +233% |
| −80% | 20万円 | +400% |
| −90% | 10万円 | +900% |
下に行くほど、必要な上げ幅が急に大きくなります。 これは算数なので、どの資産でも同じです。 違うのは、ビットコインでは下の2行が実際に起きているという点です。
この関係は、投じた額が同じであれば金額でも同じです。 100万円が20万円になったとき、失った80万円を取り戻すには、 残った20万円が80万円ぶん増える必要があります。失った額より、残った額のほうがずっと小さいので、 そこから同じ額を取り戻すのは難しくなります。
株式の指数で「大暴落」と呼ばれる下げは、4割から5割です。 そこから戻るには8割から2倍の上げが要ります。 8割下げた場合は、その先さらに2倍以上の道のりがあることになります。
実際にどれくらい下げてきたか
ビットコインには、高値から大きく下げた局面が繰り返し訪れています。 8割前後の下げが、これまでに複数回ありました。
回数が多いことも大事な点です。 一度だけの事故なら「あの年は特別だった」と言えますが、繰り返し起きているのであれば、それがこの資産の性質です。
下げる理由も、そのときどきで違います。 取引所の破綻、規制の強化、大口の売り、 金利が上がって値動きの荒い資産から資金が引くこと。次に何が引き金になるかは、事前には分かりません。分かっているのは、深く下げる局面が繰り返し来ているという事実だけです。
もう一つ、下げ方の速さも株式とは違います。 数か月のうちに半分になることがあり、 売るかどうかを落ち着いて考える時間が取りにくくなります。
- 8割前後の下げが、一度きりではなく繰り返し起きている
- 下げ方が速く、判断する時間が短い
- 下げているあいだ、配当のような支えが何も入らない
日本に住む人にとっては、ここに為替も乗ります。 ドルで8割下げた局面で同時に円高が進んでいれば、 円で見た下げはさらに深くなります。 逆に円安なら、円で見た下げは少し浅くなります。受け取るのは円なので、円で見た下げのほうが実際の痛みです。
3つ目は、前の記事で見た「何も生まない」性質がここで効いてくる部分です。 株式なら、値段が戻らなくても配当は入り続けます。 ビットコインで下げた期間は、ただ待つ期間になります。
自分の金額でどれくらい減るのかは、ビットコインに投資していたら今いくらかを試算すると、その期間にいちばん沈んだところが円で出ます。
深さより、長さのほうがつらい
数字の上では深さが目立ちますが、 実際に持ち続ける人にとってつらいのは長さのほうです。
高値を取り戻すまでに数年かかった局面があります。 その間、口座を開けば含み損の数字が表示され続けます。毎日それを見ながら、何もしないでいる必要があります。
この長さは、あとから振り返ると1行で済みます。 「数年かけて戻った」と書けば数秒で読めますが、 実際に持っていた人にとっては、 その数年ぶんの月日を1日ずつ過ごしたことになります。記録の上での長さと、体感の長さはまったく違います。
しかもその期間中、まわりの話題は静かになります。 値上がりしているときは目にする情報が増え、 下げているときは減ります。持っている自分だけが取り残された気分になります。
そして、待っているあいだにも生活は続きます。 その数年のうちに、まとまったお金が必要になる出来事が起きるかもしれません。 そのとき、含み損のまま売らざるを得なくなります。いつ必要になるか分からないお金を入れてはいけないのは、 値動きが荒いからというより、この理由のほうが大きくなります。
売ってしまえば、そこで損が確定します。 そして戻ってきたとき、手元には何も残っていません。耐えられなかった場合、戻ってきても意味がないのはこのためです。
年率だけを見ると、この谷が消える
もう一つ気をつけたいのが、年率という数字の見え方です。
同じ「年◯%」でも、途中の道のりはまったく違います。 まっすぐ増えた場合と、8割沈んでから戻った場合で、 あとから計算した年率は同じ値になります。
ビットコインの年率は、株式の指数と比べてかなり大きな数字になります。 けれどその数字は、途中の谷を通り抜けた人の結果です。 谷の途中で売った人は、その年率を受け取っていません。
いつから数えるかでも、年率は大きく変わります。 高値の直前から数えれば低く出て、 下げきったところから数えれば高く出ます。 期間の短い資産ほど、この差が極端になります。 目にした年率が、どの期間を数えた数字なのかを確かめてください。
年率を見るときは、必ず同じ期間の最大下落と並べて見てください。 片方だけでは、持ち続けられるかどうかの判断ができません。
耐えられる額の決め方
ここまでを踏まえると、決め方は1つに絞れます。 期待する上げ幅からではなく、耐えられる下げ幅から決めることです。
手順としては、まず生活費と近く使う予定のお金を外します。 残った中で、8割減っても持ち続けられる額を考えます。 その額が、投じてよい上限になります。
ここで大事なのは、下げ幅を自分で決めないことです。 「まさか8割は下げないだろう」と思ったところから始めると、 その想定が外れたときに耐えられなくなります。過去に起きた中でいちばん深い下げを当てはめて、 それでも続けられる額かどうかで考えてください。
この順で考えると、多くの人にとって金額はかなり小さくなります。 それが正しい結果です。値動きの荒さに対して、 耐えられる額のほうが先に上限を決めます。
もう1つ、家族と暮らしている場合は その額を家族に説明できるかどうかも目安になります。 8割減ったときに説明できない額なら、 そもそも投じる額として大きすぎるということです。 自分だけで抱えられる範囲かどうかは、判断の材料になります。
資産全体の中での割合で決める方法もあります。 数%までと決めておけば、値上がりした年には割合が上がるので、 その都度いくらか売って元に戻すことになります。上がったときに一部を確定させる仕組みが、あらかじめ入る形です。
いくらまでなら投じてよいかは、こちらでは決められません。自分の金額で試算すると、耐えられると答えた額から逆算した上限が算数で出ます。
