結論から
日本の証券会社で買っていても、投資先が米国株である以上、 為替の影響からは逃れられません。 円で買い付けていても、その裏では米ドルに換えて米国株を買っています。
この記事では、為替がどう効いてくるのか、 直近の実績にそれがどれだけ含まれているのか、 そしてどう考えればよいのかを整理します。
どう効いてくるのか
まず、効き方の形を確かめます。 足し算ではなく掛け算になるところが、この話の要点です。
外貨建ての資産は、外貨で見た値段と、 その外貨の円に対する値段という、2つの値段を同時に持っています。 円で見るとは、この2つを掛け合わせることです。
掛け算なので、どちらか一方が大きく動けば、 もう一方が小さく動いても結果は大きく変わります。
指数が10年で2倍になり、そのあいだに1ドルが100円から150円になったとします。 このとき円で見た資産は、2 × 1.5 で3倍です。 ドルで見ていた人は「2倍になった」と思いますが、 日本に住む人が受け取るのは3倍のほうです。
逆も同じです。指数が2倍でも、1ドルが150円から100円になっていれば、 2 × 0.67 で約1.3倍にしかなりません。指数の成績はよくても、円での成績はそれほどでもないということが起こります。
組み合わせは4通りあります。 このうち2つは、指数の動きと為替の動きが逆を向くので、 結果がどちらに転ぶかは動いた幅の大きさで決まります。
| 指数の動き | 為替の動き | 円で見ると |
|---|---|---|
| 上がる | 円安 | 大きく増える |
| 上がる | 円高 | 増え方が小さくなる。減ることもある |
| 下がる | 円安 | 減り方が小さくなる |
| 下がる | 円高 | 大きく減る |
どちらの向きにも効くという点が大事です。 為替は増やす方向にも減らす方向にも働きます。 直近が増やす方向だったからといって、そういう性質のものではありません。
この計算は、実際に売って円に戻すかどうかとは関係ありません。 持ったままでも、円で評価すればその時点の為替が反映されます。 証券会社の画面に出る評価額も、その日の為替で円に直したものです。
直近の実績には円安が乗っている
ここからは、実際に起きたことを見ます。 直近の実績を読むときに、この点を知らないと、 指数の実力を過大に見積もることになります。
ここ10年ほどは円安が進みました。 このため、S&P500を円で見た成績は、 指数そのものの成績よりかなり大きく出ています。
これは実際に起きたことなので、その期間に持っていた人は本当に恩恵を受けています。 ただしこの上乗せは、米国企業が生んだものではありません。為替が動いたから乗ったもので、逆に動けば逆に効きます。
しかも、この上乗せは指数の実力とは無関係に乗ってきます。 米国企業がどれだけ利益を出したかとは別のところで、 日本にいる人の資産額が増えていた、ということです。
過去の円換算の実績を見て「この調子で増える」と考えると、 円安が続く前提を無意識に置いていることになります。 為替の先行きは、株価と同じかそれ以上に読めません。
為替がどちらに動くかを当てられる人はいません。 専門にしている人でも外します。 だから「これから円高になる」と決めつける必要もありませんが、 「円安が続く」と決めつけるのも同じことです。
指数の寄与と為替の寄与を分ける
円安が乗っていると分かったら、次はどれだけ乗っていたのかを見ます。 これは自分で計算できます。
自分の成績のうち、どれだけが投資先の伸びで、 どれだけが円安によるものかは、分けて計算できます。
やり方は単純な割り算です。証券会社の画面には円の評価額しか出ないことが多いので、 自分で計算するしかありませんが、手順は難しくありません。
円で見た倍率を、ドルで見た倍率で割れば、残りが為替の寄与です。 この作業をすると、直近10年の円換算の成績のうち、 相当な部分が為替によるものだったことが見えてきます。
必要なのは3つの数字だけです。
- ドルで見た倍率 — 投資先が伸びたぶん
- 為替の倍率 — 円が安くなったぶん
- その掛け算が、円で見た倍率
ドルでの倍率は、指数の値をそのまま調べれば分かります。 円での倍率は、自分の買値と現在の評価額から出ます。 この2つがそろえば、残りが為替の寄与です。
たとえば円で3倍になっていたとして、ドルでは2倍だったなら、 残りの1.5倍分が為替の寄与です。 この場合、増えた金額のうち相当な部分は円安が作ったことになります。
分けて見る意味は、期待の置き方が変わることです。 円安が結果の相当部分を作っていたのなら、 それが続かない場合には、これまでと同じようには増えません。
もうひとつ、資産全体を見るときにも効いてきます。 外国株、外貨預金、外貨建ての保険などは、 別々の商品に見えても、円高になれば同じ方向に効きます。1つずつ見ていると分散しているように見えて、 通貨の面ではまとまっていることがあります。
為替ヘッジという選択肢
ここまで読んで、為替の影響を避けたいと思う人もいるはずです。 そのための仕組みが用意されているので、性質を見ておきます。
為替の影響を抑える仕組みとして、為替ヘッジがあります。 ヘッジありの投資信託を選べば、円高で目減りする影響を小さくできます。
ただし、ただではありません。 ヘッジには2つの通貨の金利差にあたる費用がかかります。 日本の金利が米国より低いあいだは、その差の分だけ成績が削られます。
性質を並べると、どちらにも良い面と悪い面があることが分かります。 円高で守られる代わりに、円安の上乗せも入りません。
| 円高のとき | 円安のとき | 費用 | |
|---|---|---|---|
| ヘッジなし | 目減りする | 上乗せされる | かからない |
| ヘッジあり | 影響を抑えられる | 上乗せも入らない | 金利差の分がかかる |
この費用は目に見えにくいところが厄介です。 信託報酬のように率が示されるわけではなく、 成績の差として後から現れます。
もうひとつ、ヘッジは為替の影響を完全に消すものではありません。 仕組み上わずかなずれが残り、金利差が大きく動けば費用も動きます。 「ヘッジをしておけば円建てと同じ」と考えると、想定と違う動きに戸惑います。
どう考えればよいか
為替が読めない以上、当てにいく前提では決められません。 自分の側から決める方法を取ります。
- 円で見た成績が、指数の成績と一致しないことを前提にする
- 資産全体のうち、外貨建てがどれだけあるかを把握する
- 円高が来ても持ち続けられる金額に収めておく
1つ目と2つ目は、把握するだけで判断が変わります。 「S&P500に投資している」と思っていたものが、 実は「米国株と米ドルの両方に投資している」ことに気づくと、 資産全体の見え方が変わってきます。
為替が読めないことは、投資先が読めないことと同じです。 読めないものが2つある以上、当てにいくより、 外れても困らない状態を作るほうが確かです。
3つ目が実務的です。過去にどれだけ下がったかを自分の金額に当てはめれば、 耐えられるかどうかが金額で分かります。 円換算での下落には、指数の下げと円高の両方が入っています。
自分の金額で確かめられます。円換算での実績と下落を試算すると、同じ月の為替で直した金額が出ます。
