資産の合計が5,000万円あると聞けば、余裕があるように思えます。 ですがそのうち4,000万円が自宅なら、生活費に回せるのは1,000万円だけです。 この差を見落とすと、見通しが根本からずれます。
資産管理のアプリや家計の本では、たいてい純資産のほうが前に出ます。 全体の規模を1つの数字で言えるからです。 ですが生活の判断に使うのは、ほとんどの場面でもう片方のほうです。
同じ資産に、2つの見方がある
純資産は、その人がいくら持っているかを表します。 相続で分けるとき、担保に入れるとき、 全体の規模を知りたいときは、こちらで見ます。
使えるお金は、いま生活費に回せる額を表します。 今月払えるか、この先何年もつか、という見方をするときは、こちらです。どちらかが正しいのではなく、聞いている問いが違います。
この2つを混同すると、判断が反対を向くことがあります。 純資産で見れば十分に余裕があるので、もっと投資に回せると考える。 ところが使えるお金で見ると手元は薄く、 収入が止まった月に売る以外の選択肢がありません。同じ人の同じ資産で、逆の結論が出ます。
| 純資産 | 使えるお金 | |
|---|---|---|
| 預金・投資 | 入る | 入る |
| 不動産(自宅) | 入る | 入らない |
| 保険(返戻金) | 入る | 入らない |
| 現物資産 | 入る | 入らない |
| 負債 | 引く | 引く |
自宅は、住んでいるかぎり使えない
持ち家がある人の純資産は、賃貸の人より大きく出ます。 ですが自宅は、住んでいるかぎり売れません。 売れば住む場所が無くなるので、生活費のために売る、という選択肢が実質ありません。
しかも自宅は、持っているだけでお金が出ていく側でもあります。 固定資産税、火災保険、修繕。マンションなら管理費と修繕積立金。 資産として大きく計上されているものが、毎年の支出も生んでいます。
賃貸に出している不動産は、少し扱いが違います。 家賃が入ってくるので、収入としては使えるお金に効きます。 ただし物件そのものは、売らなければ生活費にはなりません。入ってくる家賃は使えるお金、物件の価値は純資産、と分けて数えます。
保険を解約すると、保障が消える
貯蓄型の保険には解約返戻金があるので、資産として計上できます。 ですがこれも、いつでも使えるお金ではありません。
解約すれば返戻金は入りますが、そのあとの保障が無くなります。 生活費が足りなくなって保険を解約した人は、 同時に入院や死亡への備えも失っています。いちばん困っているときに、備えまで手放すことになるという順番です。
学資保険も同じです。子どもの学費のために積んでいるものを、 その前に生活費で使ってしまうと、 いちばん要る年に手元に無い、ということが起こります。 目的が決まっているお金は、使えるお金から外して数えるほうが安全です。
掛け捨ての保険には返戻金がないので、そもそも資産に計上されません。 この場合は迷いようがなく、保険料は毎月の支出として出ていくだけです。 貯蓄型と掛け捨てで、資産の見え方がまったく変わるということでもあります。
なぜ分けないと危ないのか
純資産だけで線を引くと、多くの場合その線は右上がりになります。 自宅の価値が計上され、ローンが減っていくからです。線が上がっているのに、生活費が払えなくなるということが起こります。
線が上を向いているうちは、誰も危険だと思いません。 気づくのは、実際に払えなくなったときです。 そこから打てる手は、資産を売るか、生活を落とすか、借りるかしかありません。 どれも、早く気づいていれば避けられたものです。
このずれは、退職してから表に出ることが多くなります。 働いているあいだは毎月の収入が入るので、 手元が薄くても回ってしまうためです。収入が止まった瞬間に、使えるお金の薄さがそのまま生活に出ます。
逆に、賃貸で預金が厚い人は、純資産では小さく見えます。 ですが使えるお金では上位にきます。家を持たない選択は、 純資産を小さくするかわりに、動かせるお金を厚くしている、と読めます。 どちらが良いという話ではなく、見る額を取り違えないことが大事です。
「老後に売る」を前提にするなら
自宅を売って生活費にあてる、という計画自体は成り立ちます。 ただし、その前提を置くなら2つを同時に書いてください。
1. 住む場所の費用
売ったあとも、どこかに住みます。 賃貸に移るなら家賃が毎月かかり、住み替えるなら購入費がかかります。 売却額をそのまま生活費に足すと、この費用が消えます。
住み替え先が小さくなるなら差額が残りますが、 その差額から仲介手数料や引っ越し費用、登記の費用が引かれます。 売却額と手取りは違うので、そこも見込んでおいてください。
2. 売れるかどうか
売りたいときに、売りたい額で売れるとは限りません。 場所によっては買い手が付くまで時間がかかりますし、 そのあいだも固定資産税と維持費は出ていきます。売る前提は、売れる前提とセットです。
もう1つ、売ると決めるのが自分だとも限りません。 判断が難しくなってからでは、家を売る手続きそのものが重くなります。 その場合に備えて、売らずに済む額を先に用意しておくほうが確実です。 自宅を最後の備えにすると、いちばん要るときに動かせないことがあります。
どちらの見方をいつ使うか
| 場面 | 見る額 |
|---|---|
| 生活費が足りるか | 使えるお金 |
| 投資に回せる額 | 使えるお金 |
| 相続でどう分けるか | 純資産 |
| 全体の規模を知る | 純資産 |
| 借入の担保 | 純資産 |
迷ったときの基準は、「明日それを使えるか」です。 明日使えるなら使えるお金、 手続きや売却が要るなら純資産にだけ入れる。 この線の引き方が、いちばん実際に近くなります。
迷うのが、すぐ売れる投資信託や株です。 売れば数日で現金になるので、使えるお金に入れて構いません。 ただし、売る時期を選べない状況で売ると損が出ます。 だから生活防衛資金は、投資ではなく預金で持つことになります。 この順番は手取りから、いくら投資に回せるかで扱っています。
自分の「使えるお金」を出す
出し方は簡単です。資産の合計から、 不動産・現物資産・保険を引き、負債を引く。それだけです。
手で計算してもよいのですが、資産が増えると毎回やり直すことになります。 ToMiでは純資産と「使えるお金」を2本の線で出すようにしてあります。 登録した資産の種類から自動で分けるので、どちらも同時に見られます。
出したあとは、その額が生活費の何年分にあたるかを見てください。 金額そのものより、年数のほうが判断しやすくなります。 「1,000万円ある」より「生活費3年分ある」のほうが、 足りているかどうかを自分で決められます。 年数にすると、生活費が増えたときに自動的に短くなるのも分かります。
登録は要りません。入力したデータはブラウザの中だけに残ります。 まず、いま手元で自由に動かせるのがいくらなのか。 そこからライフプラン表を作ると、線の意味が変わって見えます。
もし使えるお金が思ったより薄かったとしても、それ自体は悪いことではありません。 住宅にお金を回した結果として、そうなっているだけのこともあります。問題なのは、薄いことではなく、薄いと気づいていないことです。 気づいていれば、預金を厚くする、支出を見直す、といった手を先に打てます。
