相続税の計算は、所得税や住民税とかなり形が違います。 「財産がこれだけあるから、税率は何%」とはなりません。いったん法定相続分どおりに分けたとみなして税額を出し、あとから実際の分け方で配り直す、 という回り道をします。この回り道を知っておくと、分け方で何が変わって何が変わらないかが見えてきます。
「財産 × 税率」では計算しない
相続税の税率表を見ると、10%から55%までの段階があります。 ここで「財産が1億円なら30%だから3,000万円」と考えるのは間違いです。 税率表を当てるのは財産そのものではなく、後で出てくる「法定相続分に応ずる取得金額」です。
5つの段は必ずこの順番で通ります。 とくに3つ目の段が相続税に特有のところで、実際に誰がいくら受け取るかとは関係なく、 一度、法律で決まった割合どおりに分けたことにして計算します。 こうすることで、分け方を工夫して税率の低い段に収める、ということができなくなっています。
1. 課税価格を出す
最初に、税をかける元になる額を出します。
財産は、預金・株式・不動産などです。不動産は相続税評価額で数えます。 みなし相続財産は、死亡保険金や死亡退職金のように、 亡くなったことで受け取るお金です。これには法定相続人の数に応じた非課税の枠があり、 枠に収まる分は入れません。
亡くなる前の一定期間に受けた贈与は、課税価格に足し戻します。 この期間は、相続の開始日によって長さが変わる移行の途中にあります。 借入・未払いの税・葬式の費用は差し引けますが、墓地や仏壇の購入費のように 差し引けないものもあります。
葬式の費用として差し引けるのは、通夜や告別式、火葬や納骨にかかった費用などです。 香典返しや、法要(初七日や四十九日など)の費用は差し引けません。 亡くなる前に買っておいた墓地や仏壇は、そもそも相続税がかからない財産なので、 その購入のために借りたお金も差し引けません。
2. 基礎控除を引く
課税価格から、基礎控除を引きます。残った額を課税遺産総額といいます。
ここでマイナスになれば、相続税はかかりません。申告も要りません。 プラスになった分だけが、次の段へ進みます。
法定相続人の数には決まりがあり、家族全員の数ではありません。 相続を放棄した人も数に入れ、養子は数に上限があります。 この人数は、次の段の「分けたとみなす」ときの人数にもそのまま使います。
人数が効くのは、線の高さだけではありません。 次の段で分ける人数が増えると、1人あたりの額が小さくなり、低い税率の段に収まる部分が増えます。 そのため、同じ財産でも法定相続人が多い家ほど、相続税の総額は小さくなります。
3. 法定相続分で分けたとみなす
課税遺産総額を、法定相続分どおりに分けたことにします。 実際の遺産分割がどうなっていても、ここでは関係ありません。
| 相続人 | 配偶者の取り分 | ほかの人の取り分(全体で) |
|---|---|---|
| 配偶者と子 | 2分の1 | 2分の1を子で等分 |
| 配偶者と父母 | 3分の2 | 3分の1を父母で等分 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 4分の3 | 4分の1を兄弟姉妹で等分 |
| 配偶者のみ | 全部 | — |
配偶者がいなければ、その順位の人たちで等分します。 子が3人なら、それぞれ3分の1ずつです。
4. 税率を当てて、総額を出す
3つ目の段で分けたそれぞれの額に、速算表を当てて税額を出します。 これを全員分合計したものが、相続税の総額です。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | — |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
控除額は、段が変わる境目で税額が跳ねないように置かれている数字です。 取得金額に当てはまる段の税率を掛けて、その段の控除額を引けば、 累進の計算を1行で済ませられます。
ここで大事なのは、税率が1人ずつの取得金額に当たることです。 課税遺産総額が同じでも、法定相続分で分ける人数が多いほど、各人の額は低い段に収まります。 反対に、配偶者のみ・子1人のみのように相続人が1人だと、課税遺産総額の全部に1人ぶんの累進がかかり、 総額は大きくなります。
5. 実際の取得割合で配り、加算と控除をする
最後に、総額を実際に取得した割合で各人に配ります。 ここで初めて、実際の遺産分割が効いてきます。
配ったあとで、人によって税額が増えたり減ったりします。
| 増減 | 内容 |
|---|---|
| 増える:2割加算 | 配偶者・子・父母以外(兄弟姉妹など)は、税額が20%増える |
| 減る:配偶者の税額軽減 | 配偶者が取得した額のうち、一定額までは税がかからない |
| 減る:贈与税額控除 | 足し戻した贈与にかかった贈与税を差し引く |
| 減る:未成年者控除・障害者控除 | 相続人が未成年や障害者なら差し引く |
配る割合は、実際に取得した課税価格の割合です。 たとえば配偶者が課税価格の6割を取得すれば、総額の6割が配偶者に配られます。 そのうえで配偶者には税額軽減、兄弟姉妹などには2割加算が入るので、 同じ総額でも、誰が取得するかによって家族で納める額の合計が変わります。
例で、最初から最後まで通す
課税価格1億円、相続人が配偶者と子2人の場合で、5つの段を通します。
| 段 | 計算 | 額 |
|---|---|---|
| 1. 課税価格 | 財産から借入などを引いた額 | 1億円 |
| 2. 基礎控除 | 3,000万円 + 600万円 × 3人 | 4,800万円 |
| 課税遺産総額 | 1 - 2 | 5,200万円 |
| 3. 配偶者の分 | 課税遺産総額 × 2分の1 | 2,600万円 |
| 3. 子1人の分 | 課税遺産総額 × 4分の1 | 1,300万円 |
| 4. 相続税の総額 | それぞれに速算表を当てて合計 | 630万円 |
ここまでで、相続税の総額は630万円になりました。 法定相続分どおりに分けたとすると、配偶者に総額の2分の1、子それぞれに4分の1が配られます。
| 相続人 | 配られた額 | 配偶者の軽減 | 納める額 |
|---|---|---|---|
| 配偶者 | 315万円 | -315万円 | 0万円 |
| 子1 | 158万円 | — | 158万円 |
| 子2 | 158万円 | — | 158万円 |
配偶者の分は税額軽減ですべて差し引かれ、家族全体で納める額は315万円になります。 総額の630万円と、実際に納める315万円は別の数字だということです。
配偶者の分が0円になったのは、配偶者が法定相続分どおり(2分の1)に取得し、 その額が軽減の上限に収まっているからです。 配偶者の取得をもっと増やせば家族で納める額はさらに下がりますが、 配偶者が亡くなったときの二次相続で、その分の税がかかってきます。 分け方は、一次と二次を合わせて比べてから決めてください。
ご自分の家族と財産で同じ計算を通したいときは、家族構成と財産の内訳から相続税を概算するで、分け方を変えたときの差や、納税の現金が足りるかまで確かめられます。 いずれも概算なので、申告の前には税理士または税務署にご確認ください。
