結論から
「有事の金」「インフレに強い」といった言い方をよく見かけます。 どちらも当たっている面はありますが、それだけで買う理由にするには足りません。
先に押さえておきたいのは、金がどういう仕組みで増える資産なのかです。 そこが分かると、株式や債券と同じ物差しで比べられなくなる理由も見えてきます。
持っていても、何も生まない
株式を持っていると配当が入ります。債券を持っていると利息が入ります。 不動産やリートなら家賃が入ります。どれも、値段が動かなくても 持っているだけでお金が入ってくる仕組みです。
金にはそれがありません。金庫に10年入れておいても、 出てくるのは同じ量の金だけです。
この違いは、時間が経つほど効いてきます。 配当や利息が入る資産は、その分を再び投じることで増え方が加速します。金にはその加速がありません。値段が10年変わらなければ、10年後の資産は10年前と同じです。
しかも、持つこと自体に費用がかかることがあります。 現物で持てば保管の費用がかかりますし、 金を裏付けにした商品でも、運用会社に払う経費が毎年引かれます。
| 株式・債券・不動産 | 金 | |
|---|---|---|
| 持っているあいだの収入 | 配当・利息・家賃 | なし |
| 増える理由 | 値上がり+収入 | 値上がりだけ |
| 持つ費用 | 商品による | 保管料または経費 |
| 値段が動かない年 | 収入の分だけ増える | 増えない |
もう一つ、株式や債券と違うのは「元本」という考え方が無いことです。 債券なら満期に額面が返り、預金なら預けた額そのものは減りません。 金にはそういう決まった戻り先がなく、 売るときの値段が、そのときの相手が払う額そのものになります。 高く買った年に急いで売れば、その差額はそのまま損になります。
買うときと売るときで値段が違う点も、現物では効いてきます。 店が買い取る値段と売る値段には差があり、 買った瞬間からその差の分だけ含み損を抱えた状態で始まります。 少額を短い期間で売買するほど、この差が結果を削ります。
では、何で値段が決まるのか
収入を生まないということは、値段の根拠を業績や利回りに求められないということです。 株式なら「この会社はいくら稼ぐか」から考えられますが、金にはその手がかりがありません。
金の値段は、買いたい人と売りたい人の量で決まります。 その量を動かす要因として、よく挙がるものが3つあります。
- 金利。利息を生む資産の魅力が下がると、金に資金が向かいやすい
- 通貨への信頼。特定の国の通貨が信用を失うと、代わりとして買われる
- 不安。戦争や金融危機のような場面で、逃げ先として買われる
1つ目は、意外に思われるかもしれません。 金は利息を生まないので、預金や債券の利息が高いときには 「わざわざ金を持つ理由」が薄れます。 逆に金利が低いと、利息を諦める痛みが小さくなります。
2つ目と3つ目が、いわゆる「有事の金」と呼ばれるものです。 ただし、これは必ずそうなるという法則ではありません。危機の場面で金が下げたこともあります。 現金が必要になった投資家が、換金しやすい金から先に売るためです。
この3つはどれも、金そのものの中で起きることではありません。 会社の業績なら決算で数字が出ますが、 金の値段を動かすのは外側の事情ばかりです。 そのぶん、いくらなら高すぎるのかを判断する物差しも持てません。 株式なら利益と株価を比べて割高かどうかを考えられますが、 金にはその比べる相手がありません。
インフレについても同じです。物価が上がる局面で金が買われる傾向はありますが、 物価の上昇率と金の値上がり率が毎年そろうわけではありません。 何年も物価に負けた時期もあります。
円で見ると、為替が乗る
金は世界で米ドル建てで取引されています。 日本に住む人が円で買う場合、受け取る結果には為替の動きも入ります。
つまり、円で見た金の値段は「ドル建ての金の値段」と「ドル円」の掛け算です。 円安が進めば、ドル建ての値段が変わらなくても円では増えます。 円高が進めば、ドル建てで上がっていても円では減ることがあります。
この10年ほどは円安が進んだので、 円で見た金の成績には、その分が上乗せされています。 「金が上がった」と言われている中身の一部は、円が弱くなったぶんです。
どちらがどれだけ効いたのかは、分けて見ないと分かりません。金に投資していたら今いくらかを試算すると、指数そのものの伸びと為替の効きを分けた内訳が出ます。
買い方は4つある
金を持つ方法は1つではありません。 どれを選ぶかで、費用と手間と税金の扱いが変わります。
| 方法 | 持ち方 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 地金・コイン | 現物を自分で持つ | 保管と盗難。売買の差額が大きい |
| 純金積立 | 毎月一定額を買う | 年会費や手数料がかかることがある |
| ETF・投資信託 | 証券口座で買う | 毎年の経費。現物は受け取れない |
| 金鉱株 | 掘る会社の株を買う | 金そのものとは値動きが違う |
いちばん下は、金そのものではありません。 金を掘る会社の株なので、その会社の業績や借入の状況にも左右されます。 金の値段が上がっても株価が下がることがあります。
手軽さで選ぶならETFや投資信託になりますが、現物を手元に置くこと自体に意味を見いだす人には向きません。 何のために持つのかで、選ぶものが変わります。
同じ「金の投資信託」でも、中身が違うことがあります。 金そのものを裏付けに持つものと、金鉱株を集めたものが、 どちらも金の商品として並んでいることがあるためです。 目論見書で何を持つ商品なのかを確かめてから買ってください。 名前だけでは区別がつかないことがあります。
税金の扱いも方法によって違います。 現物や積立で得た利益は譲渡所得として扱われることが多く、 保有期間によって課税される額が変わります。 証券口座で買う商品とは計算のしかたが別なので、 売る前に自分の持ち方の扱いを確かめてください。
資産の中でどう置くか
ここまでを踏まえると、金は「これ1本で増やす資産」ではありません。 収入を生まない以上、長く持つほど有利になる仕組みが働かないためです。
それでも持つ理由があるとすれば、株式とは違う動きをする年があるという点です。 株が下げた年に金が下げなければ、資産全体の下げは浅くなります。
ただし、この「違う動き」も毎年そうなるわけではありません。 株と金がそろって下げた年もありますし、 株が伸びた年に金だけが取り残された年もあります。 期待できるのは、長い目で見たときに同じ方向にそろいにくいという程度のことです。 必ず逆に動く保険のようなものではありません。
この効果を狙うなら、量は控えめになります。 資産の大半を金にすると、株が伸びた年にその分を取り逃がします。 収入を生まないものを多く持つほど、増える力は弱くなります。
- 増やす中心に据えるものではない
- 株と違う動きをする年がある、という一点で持つ
- 多く持つほど、増える力は弱くなる
置く量を決めるときは、資産全体の中での割合で考えるほうが実務的です。 金額で決めると、株が伸びた年に割合が下がり、 株が下げた年に割合が上がるという逆の動きになります。 割合で決めておけば、上がったほうを売って下がったほうを買い足す という判断が、あらかじめ決まった形で回ります。
いくらまでなら持てるかは、下げたときに耐えられるかで決まります。自分の金額で試算すると、過去にいちばん下げた局面での減り方が円で出ます。
