寄附そのものは成立する
上限を超えて寄附しても、寄附そのものは問題なく成立します。 自治体は受け取りますし、返礼品も届きますし、受領証明書も発行されます。 「上限を超えると寄附が無効になる」ということはありません。
変わるのは税金の側です。上限を超えた部分は控除の枠に収まらないため、 その分だけ自己負担が増えます。つまり自己負担が2,000円では済まなくなるということです。
ここでよくある誤解が「上限を1万円超えたら、1万円まるごと損」というものです。 結論から書くと、そうはなりません。この記事はその理由と、 実際にいくら増えるのかを順に説明します。
頭打ちになるのは1本だけ
なぜそうならないのかを理解するには、控除がどう組み立てられているかを見る必要があります。 ふるさと納税の控除は1本の大きな枠があるのではなく、 性質の違う3本が積み重なってできています。上限という言葉が指しているのは、 そのうち1本にかかっている枠のことです。
ふるさと納税の控除は、所得税からの控除・住民税の基本分・住民税の特例分の3つに分かれています。 そして所得割額の20%という枠がかかるのは、3本目の特例分だけです。
上限を超えた部分がどうなるかを、この3本で見てみます。 所得税からの控除は「寄附額 − 2,000円 × 所得税の税率」で計算されるので、 超えた部分にもそのまま効きます。住民税の基本分も「寄附額 − 2,000円 × 10%」なので、 こちらも効きます。効かなくなるのは特例分だけです。
では、いくら増えるのか
増える自己負担は、おおよそ超えた額 × 特例分の割合です。 特例分の割合は「100% − 10%(基本分)− 所得税の税率」で決まります。
具体的に見てみます。上限目安が8万円の人が10万円寄附した場合、超えた額は2万円です。 この人の所得税の税率が20%だとすると、特例分の割合はおよそ69.6%になります (復興特別所得税を含めた率で計算します)。 すると増える自己負担は2万円の約69.6%で、およそ1万3,900円です。 残りの約6,100円は、所得税の控除と住民税の基本分が引き受けてくれます。
| 項目 | 額 |
|---|---|
| 上限目安 | 80,000円 |
| 寄附した額 | 100,000円 |
| 上限を超えた額 | 20,000円 |
| 増える自己負担(所得税率20%の場合) | 約13,900円 |
| 自己負担の合計 | 約15,900円(2,000円+約13,900円) |
上限を2万円超えた場合の目安
「2万円損した」と「約1万3,900円増えた」では、受け取り方がだいぶ違います。 もちろん増えないに越したことはありませんが、返礼品を受け取っていることを考えると、致命的な失敗ではありません。 この記事では返礼品の価値を金額にしていませんが、それは人によって価値が違うためで、 価値がないという意味ではありません。
所得が高い人ほど、超えたときの増え方は小さい
少し意外に思えるかもしれませんが、所得税の税率が高い人ほど、上限を超えたときに増える自己負担の割合は小さくなります。
理由は特例分の割合の式にあります。特例分は「100% − 10% − 所得税の税率」なので、 所得税の税率が高いほど特例分の割合は小さくなります。 超えた部分で消えるのはこの特例分なので、割合が小さいほど失うものも小さいわけです。
| 所得税の税率 | 特例分の割合(おおよそ) |
|---|---|
| 5% | 約84.9% |
| 10% | 約79.8% |
| 20% | 約69.6% |
| 23% | 約66.5% |
| 33% | 約56.3% |
| 40% | 約49.2% |
| 45% | 約44.1% |
所得税の税率と、超えた分で増える自己負担の割合
この表の割合は、自治体が公表している特例控除の割合と同じものです。 独立した公表値のように見えますが、実際は「100% − 10% − 所得税の税率 × 1.021」を 計算した結果です。1.021は復興特別所得税を含めるための係数で、 令和19年中の寄附までは所得税の税率にこれを掛けた率を使います。
税率5%の人が上限を1万円超えると約8,500円増えますが、 税率33%の人なら約5,600円です。同じ1万円の超過でも、増える額は3,000円近く違います。
ただしこれは「所得が高い人は気にしなくていい」という意味ではありません。 所得が高い人ほど上限そのものが大きく、寄附する額も大きくなりがちなので、 超える額自体が大きくなりやすいためです。割合が小さくても、 元の数字が大きければ増える額は大きくなります。
もう1つの上限に当たる場合
ここまでの話には前提があります。所得税の控除と住民税の基本分が、まだ余力を残していることです。この2本にも別の枠があり、 そこに当たると話が変わります。
ここまでは「所得税の控除と住民税の基本分は効き続ける」という前提で書いてきました。 ただしこの2本にも別の上限があります。
総務省の説明では、所得税からの控除の対象になるふるさと納税額は総所得金額等の40%が上限、 住民税の基本分の対象になる額は総所得金額等の30%が上限とされています。 寄附額が収入に対してかなり大きくなると、こちらの上限にも当たり始めます。
もっとも、年収500万円の人が150万円寄附するといった規模の話なので、 ふつうの使い方をしていて当たることはまずありません。 上限目安の2倍3倍まで寄附しても、40%や30%には届かないのが普通です。
超えてしまったあとにできること
その前に、そもそも超えているかどうかを確かめる必要があります。超えたと思っていて実は超えていないことも、その逆もあります。 年収別の上限表を見て「たぶん超えた」と判断している場合は、 自分の控除を入れて計算し直すと結論が変わることがあります。
自分の条件での上限目安と、上限を超えたときに自己負担がいくら増えるのかは、ふるさと納税、上限はいくら?超えたら自己負担はいくら増える?で計算できます。年収と家族構成から目安を出し、すでに寄附した額を引いて残りを表示します。
結論から書くと、寄附は原則として取り消せません。 自治体に連絡して返金してもらう、ということは基本的にできない仕組みになっています。 だから超えてしまったあとにできるのは、正確に把握して次に生かすことです。
もう1つ、返礼品を含めた損得を計算しようとしないことです。 この記事では返礼品の価値を金額にしていません。 同じ返礼品でも、欲しかった人と興味がなかった人では価値がまるで違うためです。税制の部分だけを見て、返礼品の価値は自分で判断するほうが、 結局は納得のいく結論になります。
まず、いくら増えたのかを計算しておくことです。 「なんとなく損した」で終わらせると、翌年も同じ判断をしがちです。 実際の額が分かれば、来年の寄附額をどのくらい手前で止めるかを決められます。
次に、なぜ超えたのかを見ることです。多いのは去年の上限をそのまま使ったケースと、年末に控除が増えたケースです。 前者は収入が変わっていれば当然ずれますし、後者は医療費控除のように 12月末まで額が決まらないものが原因になります。
最後に、申告方法を確かめてください。ワンストップ特例を申請していても、 医療費控除などで確定申告をするとワンストップは無効になります。 そのときにふるさと納税の分を申告に入れ忘れると、上限の中に収まっていた寄附まで控除されなくなります。 超過より、こちらのほうが損失は大きくなります。詳しくはワンストップ特例と確定申告の違いに書いています。
