結論:口座を分けても枠は増えない
同じ金融機関の中で口座をいくつ持っていても、 預金保険で保護される枠は1つのままです。 普通預金と定期預金に分けても、支店を変えても、合算して元本1,000万円までとなります。
枠が増えるのは、金融機関そのものを分けたときです。 A銀行とB銀行に分けて預ければ、それぞれに1,000万円の枠が立ちます。
なぜ合算されるのか
金融機関が破綻すると、預金保険機構は破綻した金融機関から預金者のデータを受け取り、 同じ預金者が持っている複数の口座を集約して、預金者ごとの保護額を確定します。 この作業を名寄せといいます。
名寄せは、氏名・生年月日・住所などのデータをもとに行われます。 口座番号ごとではなく、人ごとにまとめる仕組みです。 だから同じ人が同じ金融機関に持っている預金は、 何口座あっても1人分として数えられます。
制度の目的から考えると自然な設計です。 もし口座ごとに1,000万円が保護されるなら、 口座を100個作れば10億円が保護されることになり、上限を決めた意味がなくなります。
名寄せは支店の単位でもありません。 同じ銀行の別の支店に口座を持っていても、預金者が同じであれば1つにまとめられます。 支店ごとに独立した金融機関のように見えることがありますが、 預金保険の上では同じ金融機関です。
誰の預金として数えられるか
名寄せの単位は「1個人=1預金者」「1法人=1預金者」です。 夫婦や親子も、それぞれ別の預金者として扱われます。
| 名義 | 名寄せの扱い |
|---|---|
| 同じ人の複数口座(同じ金融機関) | 合算して1人分 |
| 夫の預金と妻の預金 | 別々の預金者。それぞれ1,000万円まで |
| 個人事業主の屋号の口座と個人の口座 | 同一人の預金として合算 |
| 法人の口座と代表者個人の口座 | 別々の預金者。それぞれ1,000万円まで |
| 家族の名義を借りているだけの預金 | 保護の対象外 |
誤解が生まれやすいのは、上から3行目と5行目です。分けたつもりでも合算される場合と、分けたことで保護されなくなる場合の両方があります。
個人事業主の口座はどうなるか
個人事業主の場合、事業用の預金と事業用以外の預金は同一人の預金として合算されます。 屋号の口座を作っていても、名義の実体は個人だからです。
たとえば同じ銀行に、生活用の口座に400万円、 屋号の事業用口座に800万円を置いているとします。 帳簿の上では完全に分けていても、預金保険の上では合計1,200万円の1預金者です。 保護されるのは1,000万円までで、200万円が範囲を超えます。
この扱いは、確定申告のしかたとは関係ありません。 青色申告でも白色申告でも、事業用の口座を帳簿上どれだけ厳密に分けていても、 預金保険の名寄せでは同じ1人の預金として合算されます。 屋号の口座は「その個人の口座」であって、法人の口座ではないからです。
法人成りを考えている場合は、この点が変わります。 法人を設立して法人名義の口座に資金を移せば、 代表者個人の預金とは別の預金者になり、枠がもう1つ立ちます。 ただし枠が増えることを目的に法人を作る、という話ではありません。
法人の口座は別枠になる
法人は、代表者個人とは別の預金者です。 同じ金融機関に個人の口座と会社の口座があっても、合算されません。 それぞれに元本1,000万円までの枠が立ちます。
ただし逆の見方もできます。法人の預金だけで1,000万円を超えていれば、その超過分は個人の枠では守れません。 会社の運転資金を1つの銀行に置いている場合、 金額が大きくなりやすいぶん、範囲外になる額も大きくなります。
家族名義に分けるとどうなるか
夫婦や親子はそれぞれ別の預金者なので、 実際にその人のお金であれば、名義ごとに1,000万円までが保護されます。 ここまでは制度どおりです。
問題になるのは、名義を借りているだけの場合です。 自分のお金を家族の名前の口座に入れただけの預金は借名預金と呼ばれ、 預金保険の保護の対象外になります。 保護されないだけでなく、贈与とみなされる可能性もあります。
相続が発生しているとき
亡くなった方の預金は、名寄せの扱いが少し複雑です。いつ亡くなったのかと、相続額が確定しているかの2つで変わります。
破綻より前に亡くなっていた場合
遺産分割協議が終わるなどして相続額が確定していれば、 亡くなった方の預金は各相続人の相続額に応じて分割され、 それぞれの相続人の預金として名寄せされます。 もともと自分がその金融機関に持っていた預金があれば、そこに足して合算されます。
相続額がまだ確定していない場合は、各相続人自身の預金だけで名寄せが行われます。 その後に相続額が確定した時点で、亡くなった方の預金を含めて名寄せをやり直します。
破綻より後に亡くなった場合
この場合は、亡くなった方の預金としてそのまま名寄せされます。 相続人の預金とは合算されません。
町内会や管理組合など、団体の口座
個人でも法人でもない団体の名義で口座を持っている場合、 その団体が1つの預金者として扱われるかどうかは、団体の性格によって変わります。
法人格を持つ団体は、当然に1預金者です。 法人格がなくても、権利能力なき社団と認められる団体であれば1預金者として扱われます。 団体としての組織があり、多数決で運営され、 構成員が入れ替わっても団体そのものが存続している、といった条件を満たす場合です。
| 団体 | 扱い |
|---|---|
| 法人格のある団体(商工会など) | その団体が1預金者 |
| 権利能力なき社団と認められる団体 | その団体が1預金者 |
| 任意団体 | 構成員の預金として持分に応じて分割される |
マンションの管理組合は、多くの場合「権利能力なき社団」と認められると考えられています。 総会の決議で運営され、区分所有者が入れ替わっても組合は存続するためです。 ただし規約に「組合資産について構成員が共有持分権を有する」と書かれている場合は、 任意団体と判断される可能性があります。
任意団体の預金は、破綻時に構成員の持分に応じて分割され、 その構成員が同じ金融機関に持っている預金と合算されます。団体の口座なのに、個人の枠に足されるということです。 修繕積立金のようにまとまった額を置いている場合は、 団体の性格がどちらにあたるのかを確認しておく価値があります。
実際に分けるときの考え方
ここまでを踏まえると、確認すべきなのは 「いくつの金融機関に、誰の名義で、いくら置いているか」の3点です。 口座の数は関係ありません。
超えているからといって、必ず分けなければいけないわけではありません。 金融機関が破綻する頻度は高くありませんし、 口座を増やせば、残高の把握も、住所変更などの手続きも、その数だけ増えます。
- 超えている金額が小さければ、手間に見合わないこともあります
- 近く支払いに使う資金なら、他行へ移すより決済用預金への振替のほうが手戻りがありません
- 分けるときは、超えている分だけを動かせば足ります。全額を移す必要はありません
- 給与の受取と支払いを同じ金融機関に集中させていると、破綻時に動かせない期間の影響が大きくなります
金融機関ごとの残高と預金の種類を入れると、どこでいくら超えているかが表で出ます。自分の預金で、どこが超えているかを確認する。

