「米国債は満期まで持てば元本割れしない」という説明をよく見ます。 間違いではありません。ただしそれはドル建ての話で、 円で暮らしている人が知りたいこととは、少しずれています。
このずれは、言葉の細かい話ではありません。 円高が2割進めば、5年分の利息はまるごと消えます。 受け取る利息が決まっていることと、手元に残る円が決まっていることは、 まったく別のことだと考えてください。
「元本」がどちらの通貨か
この話がこじれるのは、元本という言葉が2つの意味で使われるからです。
売る側が悪意で使い分けているとは限りません。 債券の説明としては「満期に額面が戻る」で正しく、 それをドル建ての商品に当てはめれば「元本割れしない」になります。 抜けているのは、読む人が円で暮らしているという一点だけです。
| 指しているもの | 満期に戻るか | |
|---|---|---|
| ドルの元本 | 買った額面のドル | 戻る |
| 円の元本 | 最初に出した円 | そのときの為替しだい |
売り文句として使われるのは上の行です。 生活で意味を持つのは下の行です。同じ「元本割れしない」でも、確かめている中身が違います。
どちらで見るかは、好みの問題ではありません。 そのお金を最後に何に使うかで決まります。 日本で家賃や学費に充てるなら円で見ることになりますし、 海外への支払いに充てるならドルで見ることになります。使う通貨と、測る通貨をそろえるのが出発点です。
ドルで見れば、確かに戻る
米国債は満期日が決まっていて、その日に額面が戻ります。 途中で価格が上下しても、持ち切るなら受け取るのは額面です。
ここは債券の強いところです。株式のように「いくらになるか分からない」 という要素が、満期まで持つ限りありません。 受け取る利息の額も、買った時点で最後まで決まっています。
だから、ドルで測るなら予定は立ちます。 いつ、いくらのドルが手元に入るかを、買う時点で表に書けます。
この予定の立てやすさは、株式や投資信託にはないものです。 値上がりを待つのではなく、決まった額を受け取る形なので、 「いつ売るか」を考えなくて済みます。 債券がまとまった資金の置き場所として使われるのは、この性質のためです。
満期日が決まっていることには、もう1つ利点があります。 使う予定の時期に合わせて年限を選べば、 そのお金を売るかどうか迷う場面自体が来ません。
円で見ると、戻るとは限らない
問題はここからです。戻ってきたドルを円に替えるとき、 レートは買ったときと同じではありません。
円高になっていれば、同じドルでも受け取る円は減ります。 受け取った利息を足しても足りないほど円高になっていれば、円換算では最初に出した金額を下回ります。
どこまでの円高なら耐えられるかは、利回りと年数で決まります。 その線の出し方は米国債の為替リスクで扱っています。
注意したいのは、この円高が「異常な事態」でなくても起こることです。 相場が荒れなくても、数年のあいだに1割2割は動きます。 何か特別なことが起きたときだけ元本を割る、という話ではありません。
買った価格が額面とは限らない
もう1つ、ドルの中だけで見ても「元本割れしない」が崩れる場合があります。 額面より高い価格で買ったときです。
債券の価格は額面の上下に動きます。 額面100のものを102で買えば、満期に戻るのは100までです。差の2は戻りません。
逆に、額面より安く買えば満期に差が出ます。 98で買って100が戻るなら、利息とは別に2が増えます。 こちらは受け取る利息が市場より低いかわりの調整で、 やはり合わせた結果が最終利回りになります。どちらの形でも、比べるべきは最終利回りのほうです。
詳しくは利回りと価格の関係で扱いますが、ここでは「買った価格=額面」と決めつけないことだけ押さえておけば足ります。
証券会社の画面では、価格が額面100あたりの数字で出ていることが多くなります。 「単価101.20」のような表示です。ここが100より大きいか小さいかを、買う前に見ておいてください。満期に戻るのは、その数字ではなく100のほうです。
満期まで持つと、何が消えるのか
満期まで持ち切ることで消えるのは、価格の変動です。 為替のほうは消えません。
途中で売る場合、結果を左右するのは為替と価格の2つです。 満期まで持てば、価格は額面に収束するので、残るのは為替だけになります。
判断の材料が2つから1つに減る、という意味では確かに楽になります。 ただし残った1つが小さいわけではありません。 ドル円は数年のあいだに2割動くことがあります。
言い換えると、満期保有は「為替だけの勝負にする」という選び方です。 価格を当てにいかないかわりに、為替からは逃げられません。 そこを引き受けられるかどうかが、この商品を選べるかどうかの分かれ目になります。
持ち切れないと、前提が崩れる
「満期まで持てば」という前提は、持ち切れて初めて成り立ちます。 途中で現金が要れば、そのときの価格で売ることになります。
そして現金が要る場面は、たいてい選べません。 働けなくなった、家族に何かあった、家の設備が壊れた。そういう年に限って、相場も良くないことがあります。
だから、入れる金額の線は利回りではなく手をつけずにいられるかで引くことになります。 生活防衛資金や、数年内に使う予定のあるお金は、この商品の外に置きます。
年限の選び方も同じ考え方です。利回りが高いからと10年を選ぶより、 手をつけずにいられる年数に合わせて選ぶほうが確実です。 5年なら持ち切れるが10年は分からない、というときは5年にする。利回りの差より、持ち切れるかどうかのほうが結果に効きます。
「元本保証」と書けない理由
ここまでをまとめると、書けない理由は2つです。
1. 通貨によって答えが変わる
ドルでは戻り、円では戻るとは限らない。 どちらの通貨で保証されているのかを言わずに「元本保証」と書くと、 読んだ人は自分の通貨で受け取ります。
しかも、そう読んだ人が困るのは満期の日です。 何年も先なので、そのときには誰も説明を訂正してくれません。
2. 満期まで持てるとは限らない
持ち切れるかどうかは、商品ではなくその人の資金の性格で決まります。 商品の側で保証できることではありません。
ToMiがこの言葉を使わないのは、この2つが理由です。 かわりに出しているのが、何円までの円高なら成り立つかという線になります。
この線なら、あとから確かめられます。 満期の日に実際のレートと見比べれば、判断が合っていたかどうかが分かります。 「安全です」という言葉には、その確かめようがありません。
円換算でどうなるか確かめる
ドルでいくら戻るかは、買う前から決まっています。 決まっていないのは、そのドルが円でいくらになるかです。
ToMiでは円換算でいくらになるかを、為替のケース別に並べることができます。 円高・横ばい・円安の3つを同時に出すので、 ドルでは増えているのに円では減っている状態も、その場で見られます。
登録は要りません。入力したデータはブラウザの中だけに残ります。 途中で売る場合の話は途中で売るとどうなる?で扱っています。
