米国債の利回りは、円預金よりずっと高く見えます。 それでも円に戻した時点で円高になっていれば、手元の円は減ります。 利回りの差を、為替が打ち消してしまうためです。
これは米国債に限った話ではなく、外貨建ての商品すべてに共通します。 ただ米国債の場合、満期にドルの額面が戻ることが「元本保証」のように語られやすく、 為替の部分が抜け落ちたまま話が進むことがあります。
為替は2回かかる
円で持っているお金を米国債にするとき、まず円をドルに替えます。 満期にドルで受け取り、使うときにまた円へ戻します。
入口と出口で、レートは同じではありません。この2つの差が、そのまま損益に乗ります。利回りがどれだけ高くても、この差が大きければ結果はひっくり返ります。
さらに、半年ごとに受け取る利息にも為替がかかります。 受け取るのはドルなので、円で使うならそのつど替えることになります。 回数が多いぶん平均されますが、判断の回数も増えます。
もう1つ、ここで使われるレートは市場の参考値ではありません。 証券会社が客に適用するレートには為替コスト相当が乗っているので、 円からドルへ替えるときはニュースで見る値より円安側、 ドルから円へ戻すときは円高側になります。往復で2回、そのぶんだけ削られます。
ドルで増えて、円で減る
いちばん伝わりにくいのがこの状態です。 ドル建てでは元本にクーポンが積み上がっているのに、 円に直すと預けた円を下回っている。
仕組みは単純です。ドルの額は増えているけれど、 1ドルあたりの円が減っている。掛け算の片方が増えて、 もう片方がそれ以上に減れば、答えは小さくなります。
この状態が厄介なのは、取引画面の上ではうまくいっているように見えることです。 ドル建ての残高は増えているので、そこだけ見ていれば問題は起きていません。 気づくのは円に戻したときで、そのときにはもう選び直せません。
だから、ドル建ての損益だけを見て判断すると外します。 円で暮らしていて円で使うなら、判断に使う数字は円のほうです。
逆の場合もあります。円安になっていれば、ドルでは大して増えていなくても、 円ではまとまった差になります。ただしそれは、 自分が何かをうまくやった結果ではありません。為替が味方をした年に当たっただけで、次も同じとは限りません。
見るのは元本ではなく、円預金
外貨の記事でよく出てくるのは「元本割れするレート」です。 預けた元本と並ぶ線で、そこを割ると損、という見方をします。
この記事で使うのは、もう少し厳しい線です。円預金に置いたままにした場合の満期額と並ぶレートを見ます。
| 比べる相手 | 問い | |
|---|---|---|
| 元本割れライン | 預けた元本 | 損をしていないか |
| 損益分岐ドル円 | 円預金の満期額 | 動かした意味があったか |
円預金に置いておいても利息はつきます。 だから「元本は割っていない」だけでは、動かした意味があったことになりません。 円預金より多く残って初めて、動かした甲斐があったことになります。
この見方をすると、円預金の金利も効いてきます。 比べる相手が高くなれば、超えなければならない線も上がるためです。 いま使っている口座の金利が分かるなら、平均ではなくその値で見てください。
円預金と並ぶドル円
満期時のドル円を横軸に、円に戻したときの額を縦軸にとると、 線が2本引けます。
円預金の線はほぼ水平です。為替がどう動いても、円のままなら関係ありません。 米国債の線は傾きます。円安になるほど円換算の額は増え、円高になるほど減ります。
2本が交わるところが損益分岐です。 そこより右(円安側)なら米国債のほうが多く残り、 左(円高側)なら円預金のままのほうが多く残ります。
金額を変えても、線は動かない
損益分岐ドル円は、円預金の満期額を満期時のドル資産で割ったものです。 金額を増やせば両方が同じだけ増えるので、割った答えは変わりません。 動くのは、利回り・円預金の金利・年数・買ったときのレートを変えたときだけです。
年数を延ばすと、線は円高側へ動きます。 受け取るクーポンが積み上がるぶん、より大きな円高まで耐えられるためです。 ただしそれは、その年数のあいだ手をつけないでいられることが前提になります。 耐えられる幅を広げたくて年数を延ばすと、途中で売る可能性のほうが上がります。
その幅は、広いのか狭いのか
損益分岐が出たら、次に見るのはいまのレートからそこまで何%あるかです。
ここを円の額で見ないでください。「20円の円高まで大丈夫」と言われても、 1ドル150円のときと100円のときでは意味が違います。 割合で見れば、いつ見ても同じ幅を指します。
幅が狭いときは、利回りの差が小さいか、期間が短いかのどちらかです。 その状態で「利回りが高いから」と動かすと、 小さな為替の動きで結果が入れ替わることになります。
幅の広さを、そのまま安心の材料にしないでください。 見ているのは満期の1点だけで、そこへ至るまでの何年かは含まれていません。 途中で大きく円高に振れても、満期に戻っていれば計算上は問題になりませんが、 その間ずっと保有し続けられるかどうかは別の問題です。
円に戻す時期を選べるか
同じ損益分岐でも、資金の性格によって意味が変わります。
時期を選べる場合
いつ円に戻してもよいなら、円高の局面で無理に戻さずに待てます。 ただし待てば戻るという保証はありません。 円高がそのまま数年続くこともあります。
時期が決まっている場合
住宅の頭金や学費のように使う時期が決まっているなら、 その時期のレートで戻すしかありません。選べないぶん、損益分岐の幅がそのまま結果を左右します。
そもそも円に戻さない場合
ドルのまま使う予定があるなら、円換算の損益は判断の軸になりません。 見るのは、満期に手元へ残るドルと、使う予定のドルの過不足です。
自分がどれに当たるかは、買う前に決めておいたほうが確実です。 決めていないと、円高になったときに「待つ」と言い出して、 結局は必要になった時期に戻すことになります。待てるかどうかは、気持ちではなく資金の性格で決まります。
予想の代わりにはならない
損益分岐ドル円は、そこへ届くかどうかを言っている数字ではありません。 「この線を割らなければ得」という条件を示しているだけです。
将来の為替は誰にも分かりません。分からないからこそ、当てにいくのではなく、どこまでなら成り立つかを知るという使い方をします。 そのうえで、その幅を受け入れられるかを自分で決めます。
受け入れられないなら、金額を減らすか、期間を変えるか、 そもそも円のまま置いておくかを選ぶことになります。 どれも間違いではありません。
動かす場合も、全額である必要はありません。 一部だけを移せば、為替に触れる額もそのぶんに収まります。 円のまま残した分は、円高になったときの受け皿になります。
自分の損益分岐を出す
この線は、金額と年数が決まれば計算できます。 利回りとドル円は公表値を使うので、自分で調べる必要はありません。
ToMiでは円預金と並ぶドル円を逆算することができます。 10%の円高・横ばい・10%の円安の3つを並べて、 円換算でいくらになるかも同時に出ます。
登録は要りません。入力したデータはブラウザの中だけに残ります。 満期まで持つ前提そのものについては満期まで持てば元本割れしない?で扱っています。
