外貨預金の広告でいちばん目立つのは金利です。年4%、年5%という数字が並びます。 ところが、その金利を全部受け取っても円ベースでは損をすることがあります。 為替が円高に動いた場合です。しかも、これは相場が荒れたときだけの話ではありません。 ふだんの値動きの範囲でも起こります。 ここでは、その仕組みと、どこを見れば自分の場合が分かるのかを整理します。
円高になると、受取額はどう動くか
外貨預金は、円を外貨に替えて預け、満期に外貨を受け取り、必要なら円に戻す商品です。 円で見た損益は、この往復で決まります。預けるときのレートと、戻すときのレートの差です。
外貨のまま見れば、残高は必ず増えます。金利がマイナスでない限り、預けた外貨に利息が足されるからです。 問題は、その外貨を円に直したときの金額です。1ドルあたりの円が減っていれば、 同じドルでも受け取れる円は少なくなります。
3本の棒には、どれも同じ利息が乗っています。違うのは戻すときのレートだけです。 いちばん下の棒は、利息を受け取ったうえで、預けた円を下回っています。これが円ベースの元本割れです。
金利がついても元本割れする理由
年4%の金利は、1年で外貨が4%ふえるという意味です。税金が引かれるので、 手元に残るのはそれより少なくなります。一方、為替は1日で1%以上動くことがあります。1年ぶんの利息が、数日の為替の動きで消えることがあるということです。
もうひとつ、相場がまったく動かなくても目減りする理由があります。 円から外貨に替えるときと、外貨から円に戻すときで、銀行が使うレートが違うからです。 替えるときは高め、戻すときは安めのレートが適用され、その差が銀行の為替コストにあたります。 往復すると、必ずこのぶんを負担します。
つまり、外貨預金で円ベースの利益が出るには、利息が、為替コストと為替の変動の合計を上回る必要があります。 金利だけを見て「年4%なら得」と考えると、この二つが抜けます。
為替と金利では、動く速さが違う
金利と為替を並べて考えると、この二つは性質がまったく違うことが分かります。 金利は預入時に決まり、満期まで動きません。増え方も一定です。 預けた瞬間に、満期でいくらの外貨になるかがほぼ確定します。
為替はその逆です。市場が開いているあいだ、動き続けます。しかも、どちらへどれだけ動くかを事前に決めることはできません。 利息が1年かけて積み上げるぶんの幅を、為替は1週間で動くこともあれば、 1年かけてほとんど動かないこともあります。
| 金利 | 為替 | |
|---|---|---|
| 決まる時点 | 預入時に確定する | 戻すときまで分からない |
| 動く向き | 増える方向だけ | 増える/減る の両方 |
| 動く速さ | 期間に比例して少しずつ | 1日でも大きく動くことがある |
| 自分で選べるか | 預ける前に選べる | 選べない(戻す時期は選べる場合がある) |
外貨預金の損益は、この二つを足したものです。片方だけを見て判断できません。
この違いがあるので、金利の高さで通貨を選ぶと順番が逆になります。 高金利の通貨は、その国の物価上昇率や信用力を反映して金利が高くなっていることが多く、為替の振れ幅も大きい傾向があります。金利で得た分を、為替で失う可能性も同じだけ大きいということです。
損益分岐レートという見方
では、どこまでの円高なら耐えられるのか。これは計算できます。 満期に受け取る外貨を、預けた円と同額に戻せるレートを逆算すればよいからです。 これを損益分岐レートと呼びます。
満期時の外貨が多いほど、この値は小さくなります。 小さいということは、より円高になっても耐えられるということです。 金利が高いほど、預入期間が長いほど、耐えられる幅は広がります。
線が損益0を横切る点が損益分岐レートです。預入時のレートより少し左、 つまり少し円高の側にあります。このずれの幅が、利息で吸収できる円高です。
「何円まで」ではなく「何%まで」で見る
耐えられる円高を「何円まで」で覚えると、通貨をまたいだときに判断を誤ります。 1ドル150円台の米ドルと、1ランド11円台の南アフリカランドでは、 同じ「3円の円高」がまったく違う意味になるからです。
| 米ドルの例 | 南アランドの例 | |
|---|---|---|
| 預入時のレート | 1ドル=150円台 | 1ランド=11円台 |
| 3円の円高が起きたら | 2%ほどの下落 | 3割近い下落 |
| 見るべき単位 | % | % |
同じ円額の変動でも、レートの水準が違えば意味が変わります。数値は考え方を示す例です。
耐えられる幅は、預入時のレートに対する割合で見てください。「預入時より2%の円高までなら、利息で吸収できる」という形なら、 どの通貨でも同じ意味になります。新興国通貨は金利が高いぶん、 この割合も大きく出ますが、同時に為替の振れ幅も大きくなります。
円に戻す時期を選べるかどうか
損益分岐レートを下回っていても、円に戻さなければ損は確定しません。 外貨のまま持ち続け、レートが戻るのを待つという選択肢があるからです。だから、外貨預金で最後に効くのは金利ではなく、円転の時期を選べるかどうかです。
- 使う時期が決まっている資金は、その時期のレートがそのまま受取額になります
- 時期を選べる資金なら、不利な局面で無理に戻さずに待てます
- ただし、待てば戻るという保証はありません。円高が数年続くこともあります
生活費や生活防衛資金が混ざっている場合は、この選択肢がありません。 必要な月がたまたま円高でも、そのまま戻すことになります。 外貨預金に回してよいのは、使う時期を後ろへずらせるお金だけです。
もうひとつ、定期預金の形で預けている場合は満期日にも注意が要ります。 満期が来た時点で円高だったとしても、自動継続にしておけば外貨のまま持ち続けられます。 ただし継続後に適用されるのは、預入時の金利ではなく継続日時点の金利であるのが一般的です。待つあいだの金利は、預けたときの水準とは限らないということです。
海外旅行や留学、海外への支払いなど、そもそも外貨のまま使う予定があるなら、 話は変わります。円に戻さないのであれば、円換算の損益分岐は判断の軸になりません。 見るべきは、満期時の外貨残高と、外貨で支払う予定額との過不足です。 この場合でも、外貨を引き出すときや送金するときの手数料は別にかかります。
確認する順番
順番を間違えると、金利の高さだけで決めてしまいます。次の順で見てください。
1. そのお金を、いつ使うか
3年以内に使う予定があるなら、為替が戻るのを待てません。 生活防衛資金が含まれていないかも、ここで確認します。
2. 銀行が実際に適用したレート
ニュースやGoogleで見るレートではなく、取引画面に出る適用レートを使います。 市場レートで計算すると、為替コストのぶんだけ自分に有利な数字が出ます。 預入後に確認する場合は、取引明細や残高照会に「適用為替レート」として残っているはずです。 そこに出ている数字が、実際に自分が外貨を買った値段です。
このとき、為替手数料を別に足し引きする必要はありません。 銀行が提示するレートには、すでに為替コスト相当が織り込まれているためです。 「レートに含まれているのか、別途かかるのか」で迷ったら、 手数料の額ではなく適用されたレートそのものを使って計算してください。
3. 損益分岐レートと、そこまでの幅
金額・レート・年利・期間の4つが分かれば計算できます。 ToMiでは自分の預入額で元本割れラインを試算することができます。
