2つは別の控除
所得税の話に出てくる「控除」は1種類ではありません。 名前が似ているうえ、どちらも所得税を軽くする働きをするため混同されがちですが、給与所得控除と基礎控除は、計算の別の段で引かれます。
| 給与所得控除 | 基礎控除 | |
|---|---|---|
| 何のための控除か | 給与で働く人の必要経費にあたるもの | 誰にでも認められる、生活のための最低限 |
| 引く場所 | 収入から引いて「所得」にする | 所得から引いて「課税所得」にする |
| 対象 | 給与をもらっている人だけ | 所得のある人すべて |
| 額の決まり方 | 収入金額に応じて自動で決まる | 合計所得金額に応じて決まる |
給与所得控除
自営業の人は、売上から実際にかかった経費を引いて所得を出します。 給与で働く人は、スーツ代や書籍代を1件ずつ集計するわけにいきません。 そこで、収入金額に応じて自動的に決まる控除が用意されています。これが給与所得控除です。 領収書を集めなくても、収入の額さえ分かれば控除額が決まる仕組みです。
額は収入が多いほど大きくなりますが、収入に比例して伸び続けるわけではありません。 収入の段階ごとに掛ける率が下がっていき、一定の収入を超えると頭打ちになります。
頭打ちがあるのは、収入が増えても必要経費が同じ割合で増えるわけではない、 という考え方によります。 年収が2倍になっても、スーツ代や書籍代が2倍になるとは限りません。 このため、高い収入の帯では控除の伸びが止まり、 その分だけ課税所得が大きくなります。 手取り率が年収とともに下がる理由のひとつがこれです。
なお、実際にかかった経費が給与所得控除より大きい場合に、 その分を差し引ける仕組み(特定支出控除)もあります。 ただし対象になる支出の範囲は限られ、 勤務先の証明も必要になるため、使う人は多くありません。
収入が少ない人向けには最低保障額が設けられています。 収入がこの額以下なら、給与所得は0になります。 パートやアルバイトで「一定の年収までは所得税がかからない」と言われるのは、 この最低保障額と基礎控除を足した水準までは課税所得が生まれないためです。
基礎控除
基礎控除は、所得のある人なら誰にでも適用される所得控除です。 生活していくのに最低限必要な分には課税しない、という考え方に基づいています。
ただし全員が同じ額ではありません。合計所得金額が大きい人ほど額が小さくなり、 一定を超えると0になります。
基礎控除は所得税だけでなく、住民税にもあります。 ただし額は同じではありません。 また、扶養控除や配偶者控除といったほかの人的控除も、 所得税と住民税で額が違います。 「所得税では扶養に入れるが、住民税では扱いが変わる」といったことが起こるのは、 制度ごとに基準が別に定められているためです。
住民税の基礎控除は別
所得税と住民税では、基礎控除の額が違います。 所得税のほうが大きく、住民税は据え置かれてきました。 この差をそのままにすると住民税が重く見えるため、調整控除という仕組みで住民税から差し引く扱いになっています。
調整控除で使う「人的控除の差」は、実際の控除額の差ではなく、 法令で定められた金額を使います。 基礎控除の引き上げがあっても、この差の金額は据え置かれる扱いです。 手取りの計算では自動で反映されるため、利用者が意識する必要はありませんが、 住民税の明細を細かく見たときに出てくる項目です。
課税所得までの計算
2つの控除がどこで効くかを、順番に並べると次のようになります。
② 給与所得 − 基礎控除 − 社会保険料控除など = 課税所得
③ 課税所得 × 税率 − 控除額 = 所得税
②で引かれるのは基礎控除だけではありません。社会保険料控除(1年間に払った社会保険料の全額)、 扶養控除、配偶者控除、生命保険料控除、iDeCoの掛金などが、この段に並びます。
- 社会保険料控除:給与から引かれた社会保険料が全額そのまま控除になる
- 扶養控除・配偶者控除:扶養している家族の人数と条件で決まる
- 生命保険料控除・地震保険料控除:年末調整で申告する
- 小規模企業共済等掛金控除:iDeCoの掛金がここに入る
- 医療費控除・寄附金控除:年末調整では扱えず、確定申告で申告する
③の税率は、課税所得の全額に一律でかかるのではありません。 段階ごとに税率が上がる累進の仕組みで、 速算表の「控除額」の列はその差を調整するためのものです。
ここを誤解すると「税率の段が上がると手取りが減る」という話になりますが、 実際にはそうなりません。 上がった税率がかかるのは、その段を超えた部分だけです。 段の境目をまたいでも、手取りの金額が減ることはありません。
控除の効き方も、この累進と関係します。 同じ金額の控除でも、税率の高い帯にいる人のほうが軽くなる額は大きくなります。 iDeCoの掛金や生命保険料控除の効果が「年収が高い人ほど大きい」と言われるのは、 このためです。
「年収の壁」がややこしい理由
「年収◯万円の壁」という言い方がいくつも出てくるのは、基準になる金額が制度ごとに違うためです。
| 何の壁か | 見ている数字 |
|---|---|
| 自分に所得税がかかり始める | 給与所得控除と基礎控除を足した水準 |
| 扶養している人の税が変わる | 扶養される人の合計所得金額 |
| 社会保険に自分で加入する | 月額の賃金と勤務時間(年収ではない) |
| 住民税がかかり始める | 住民税の非課税限度額(所得税とは別の基準) |
税の壁は所得で、社会保険の壁は月額の賃金と労働時間で見ます。 同じ「年収」という言葉で語られていても、判定している数字が違うため、 1つの金額だけを覚えても足りません。
影響の大きさも壁ごとに違います。 税の壁を超えても、超えた分に税がかかるだけで、手取りが逆転することはありません。 一方、社会保険の壁を超えて自分で加入することになると、 保険料の負担がまとまって発生するため、手取りが一時的に下がることがあります。
ただし、社会保険に加入すること自体は不利とは限りません。 将来の年金が増え、病気で働けないときの傷病手当金も受けられるようになります。 「壁の手前で止める」か「越えて働く」かは、 その年の手取りだけでなく、こうした給付まで含めて考える話になります。
手取り計算ではどう使う?
手取りの計算では、この2つの控除は自動で反映されます。 利用者が金額を調べて入れる必要はありません。 額面年収から給与所得控除を引き、社会保険料と基礎控除を引いて課税所得を出し、 そこに税率をかけています。 控除額の表を自分で読んで当てはめる作業は、間違えやすいところなので省いています。
入れる価値があるのは、自動では分からない控除のほうです。 iDeCoの掛金、生命保険料控除、医療費控除などは本人にしか分かりません。 これらを入れると課税所得が減り、所得税と住民税がどちらも下がります。
年末調整で扱える控除と、確定申告が必要な控除がある点も押さえておきたいところです。 生命保険料控除や地震保険料控除、iDeCoの掛金は年末調整で申告できます。 一方、医療費控除や寄附金控除(ふるさと納税をワンストップ特例で処理しない場合)は、 自分で確定申告をする必要があります。
扶養控除は、扶養している人の年齢によって額が変わります。 特定扶養親族にあたる年齢の子どもがいる場合は控除が大きくなり、 同居している高齢の親を扶養している場合も上乗せがあります。 ToMiの計算では一般の扶養親族として扱っているため、 該当する場合は実際の税がここに出る額より軽くなります。
控除後の手取りを計算するでは、「その他の所得控除」としてまとめて入れられるようにしています。 入れなくても計算は出るので、まず概算を見てから足す使い方ができます。
控除の金額が分からないときは、前年の源泉徴収票が手がかりになります。 「所得控除の額の合計額」から社会保険料控除と基礎控除を引けば、 その他の控除のおおよその合計が分かります。 毎年大きく変わるものではないので、目安としては十分に使えます。
