自宅を持っている人が相続税を考えるとき、 「うちは3,000万円くらいの家だから」という言い方をします。 ですがその3,000万円が売買の相場のことなら、相続税の計算にはそのまま使いません。
同じ財産に、2つの額がある
財産には、少なくとも2つの額があります。 1つは売買の相場、つまり実際に売ったらいくらになるか。 もう1つが相続税の評価額で、こちらは法律と通達で決まった方法で出します。
どちらかが正しくて、どちらかが間違っているのではありません。目的が違うだけです。売るときの判断には相場を使い、 相続税の計算には評価額を使います。
資産管理の画面に出るのは前者です。 いま売ったらいくらか、という視点で作られているので、 相続税の計算にはそのまま持ち込めません。
さらに言えば、相続税の評価額は「安く見積もるため」の額でもありません。 誰が計算しても同じ額になるように、方法を決めてあるだけです。 売買の相場は、売り手と買い手の事情で変わります。 そこを基準にすると、同じ土地でも人によって税額が変わってしまうので、 公表された価格から機械的に出す形になっています。
土地は路線価か倍率で出す
土地の評価には2つの方法があり、地域によってどちらを使うかが決まっています。
| 方法 | 使う場所 | 出し方 |
|---|---|---|
| 路線価方式 | 市街地 | 道路に付けられた価格 × 面積 |
| 倍率方式 | 路線価の無い地域 | 固定資産税評価額 × 定められた倍率 |
路線価は毎年、国税庁が公表しています。 どの道路にいくらの価格が付いているかは公開されているので、 自分の土地がどちらの方式かも含めて確かめられます。 公表されるのは毎年7月ごろで、その年の1月1日時点の価格です。
実際の計算では、ここから土地の形や接し方による調整が入ります。 間口が狭い、奥に細長い、二方向の道路に接している。 こうした条件で額が動くので、正確な数字は専門家に見てもらうことになります。
借りている人がいる土地も、扱いが変わります。 貸している土地や、賃貸に出しているアパートの敷地は、 自由に使えない分だけ評価額が下がります。 自宅と賃貸物件では、同じ面積でも額が違うということです。
建物は固定資産税評価額
建物は、固定資産税の計算に使われている評価額をそのまま使います。 毎年送られてくる固定資産税の通知書に書かれているので、土地と違って、自分で確かめるのは簡単です。
この額は、建てたときの費用よりかなり低いのが普通です。 年を追うごとに下がっていく仕組みになっているためで、 「建築費3,000万円の家」が評価額では大きく下回ることは珍しくありません。
住んでいた宅地は、特例で下がることがある
小規模宅地等の特例といいます。 亡くなった人が住んでいた宅地や、事業に使っていた宅地について、 一定の面積まで評価額を大きく下げられる仕組みです。
自宅の土地が評価額の大半を占める世帯では、 この特例が使えるかどうかで結論が変わります。使えれば申告不要、使えなければ課税、ということが起こります。
配偶者の税額軽減も、同じ性質を持っています。 配偶者が相続する分には大きな軽減があり、多くの場合で税額が0になりますが、 こちらも適用を受けるには申告が要ります。 そして、配偶者が多く相続すると、その配偶者が亡くなったときの相続で 税額が大きくなることがあります。目先の1回だけで決められない話です。
株式は、いちばん低い月を選べる
上場株式には、日によって大きく動くという性質があります。 そのため、亡くなった日1日の値だけで決めない仕組みになっています。
| 選べる額 |
|---|
| 亡くなった日の終値 |
| 亡くなった月の毎日の終値の平均 |
| その前月の毎日の終値の平均 |
| その前々月の毎日の終値の平均 |
この4つのうち、いちばん低い額を選べます。 相場が下がっている局面で亡くなった場合と、 上がっている局面とで不公平にならないようにするための仕組みです。
投資信託も、亡くなった日の基準価額をもとに、 解約したときに引かれる税金などを差し引いた額で評価します。 こちらは月平均を使う仕組みがないので、株式とは扱いが違います。
非上場の株式は、さらに扱いが違います。 市場での値が無いので、会社の資産や利益から計算することになります。 会社の規模によって使う方法が変わり、自分では出しにくい部分です。 同族会社の株を持っている場合は、早めに税理士に相談してください。
預金と保険はどうなるか
預金は、亡くなった日の残高が基本です。 定期預金は、そこに解約した場合の利息を足した額になります。 普通預金の利息は少額なので、通常は加えません。
生命保険金は、少し扱いが違います。 受取人が決まっている死亡保険金は、遺産分割の対象になりません。 ただし相続税の計算には含まれ、 そのかわり法定相続人の数に応じた非課税の枠があります。
気をつけたいのが、名義だけ家族になっている預金です。 子ども名義の口座でも、実際に入金していたのが親で、 子どもがその存在を知らなければ、親の財産として扱われることがあります。 いわゆる名義預金と呼ばれるもので、 相続税の調査でよく指摘されるところです。
資産管理の額を、そのまま使えない理由
ここまでを見ると、なぜ2つの額を混ぜないのかが分かります。使う決まりが違うだけでなく、下がる方向の特例まであるためです。
資産管理の画面で「相続税はいくら」と出そうとすると、 時価に税率をかけることになります。 その額は、実際より大きくなることが多くなります。 土地は路線価で下がり、建物は固定資産税評価額で下がり、 特例に当たればさらに下がるからです。
不安を煽る方向に外れるということです。 だからToMiでは相続税の税額を出していません。 出せるのは在りかを辿るための表までで、 税額は税理士または税務署にご確認ください。
逆に、時価のほうが高く出るとは限らない資産もあります。 取引の少ない非上場株式や、値の付きにくい現物資産です。 こうしたものは、時価そのものを決めるのが難しく、 相続税の評価にも別の決まりが用意されています。 どちらの方向にもずれ得るので、混ぜないことがそのまま答えになります。
では、何をしておけばよいか
評価額そのものは、相続が起きてから専門家と出すことになります。 いまできるのは、その計算の材料をそろえておくことです。
どこに何があるかが分かっていれば、評価の作業はそこから始められます。 分かっていなければ、探すところから始まります。 相続税の申告は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内なので、 探す時間はそのまま考える時間を削ります。
ToMiでは登録した資産から相続財産リストを作ることができます。 そこに出る評価額は時価なので、相続税の申告にはそのまま使えません。 ですが「どこに何があるか」の部分は、そのまま材料になります。
もう1つ、固定資産税の通知書は捨てずに残しておいてください。 建物の評価額がそのまま書かれていますし、土地が倍率方式なら そこからの計算になります。毎年届くものなので、 最新の1通だけ取っておけば足ります。
